特定の地域内で、電力貯蔵システムなどと組み合わせて、分散型電源の発電量を需要状況に合わせて制御したり、自給したりする電力供給網の「マイクログリッド」。地球保護やエネルギーセキュリティの面で注目を集めています。
マイクログリッドとは
電力は、一般に人里離れた大規模な発電所で作られています。電気は送電線、変電所、配電線を経由して需要家に送られます。この発電側(供給)から需要側(消費)へ電力を流通させる電力供給網を、「電力系統」と呼びます。

近年、技術革新や環境問題と相まって、電力を必要とする場所の近くに小型発電機を設置し発電する試みが行われています。この場合、発電機が電力を必要とする場所ごとに分散して設置されるので、ここで使われる発電機は「分散型電源」と呼ばれます。また、この分散型電源を用いてエネルギーを供給するシステムを、「分散型エネルギーシステム」と呼びます。
電力の供給システムには、電力量の需給バランス、電圧や周波数といった電力品質の維持が常に求められ、「蓄電(電力貯蔵)」も重要な構成要素となります。
このように、需要地内で複数の分散型電源や電力貯蔵システムを組み合わせ、分散型電源の発電量を需要状況に合わせて制御し、電力の地域自給を可能とする小規模の電力供給網のことを「マイクログリッド」と呼びます。新エネルギーなどの分散型電源や需要設備で構成され、一つの集合体として電力系統に連結する発電方式です。

マイクログリッドの特徴
マイクログリッドは、米国で考案された概念で、究極的には電力系統から独立した運転や他のマイクログリッドと連携した運転をめざすシステムです。需要家と分散型電源の間は、自営線で結ばれます。
マイクログリッドによってネットワーク化された分散型エネルギーシステムには、下記のメリットが考えられます。
| 1.設備投資 | 電気や熱を使う場所の近くで発電するので、送電線で長い距離を運ぶ必要がなく、送電設備投資などの大規模なインフラ投資と送電損失を回避することができる。 |
| 2.環境・効率 | 需要場所での発電のため、発電の際に発生する膨大な排熱を極力自然界へ放出せずに活用できるため、エネルギー効率面と併せて地球環境面からも望ましい。 |
| 3.災害リスク | 送電網が寸断されて大規模停電に繋がらないよう、災害リスク分散型のシステムとして、社会活動の機能停止に至る災害リスクを防止する。 |
| 4.安全性 | 新エネルギー等の活用を図り、エネルギー源をできるだけ多様化することにより、特定エネルギー源への依存度を下げることが可能となり、エネルギー供給の安定性が向上する。 |
分散型電源として新エネルギーの利用も進められています。とくに、風力や太陽光といった自然エネルギーは、自然環境や季節間、昼夜間などの影響を受け出力変動が生じます。そこで、変動電源である自然エネルギーとその他の新エネルギーを適切に組み合わせ、これらを制御するシステムを開発することにより、特定地域内で安定した電力・熱供給を行うことを目標としています。
しかし、現状では多くの場合、電力需給のバランスや電力品質の維持を電力系統に依存しており、これを系統連携方式といいます。需要と供給のバランスが崩れると、電圧や周波数といった電力品質も変動し電気機器に悪影響を及ぼします。系統連携方式では、分散型電源では賄い切れない場合に電力系統の電気で補い、電気が余剰の場合は電力系統側に電気を供給します。マイクログリッドによって、新エネルギーと他の分散型電源や電力貯蔵装置をネットワークし、電力変動の波を極力平準化して電力品質を制御できれば、系統側の負担を軽減することができます。また、電力系統との連携により、分散型電源の故障やメンテナンス時には電力系統をバックアップとして利用でき、また電力系統の停電時には分散型電源を非常用として利用するなど、信頼性が向上します。
一方、分散型電源を電力系統に接続しない系統分離方式も、限られた用途で利用されています。この場合、電力系統との連携に必要な設備投資や、電力会社との契約などが不要となります。今後にむけた小型電源の系統分離方式の普及のため、安定品質の電力を供給できる制御システムの開発も進められています。
マイクログリッドの導入状況
国内におけるマイクログリッドの研究は、NEDO技術開発機構の主導のもと「新エネルギー等地域集中実証研究」(5ヵ年計画)として、2003年より開始されました。これにより、これまでの大規模集中型エネルギーシステムに対し、その補完あるいは自立のために分散型エネルギーを利用し、新しいシステムの実証を目的としたプロジェクトが青森県や京都府などで進められており、「愛・地球博」(愛知万博)においても実証研究のデモンストレーションが行われました。
1) 愛・地球博
平成17年3月に開幕した愛・地球博の会場では、テーマ「循環型社会の構築」の一環としてマイクログリッドによる電力供給が期間中継続して行われ、同年9月に閉幕しました。愛・地球博のマイクログリッドでは、生ごみや木材から取り出した水素を燃料とする燃料電池や太陽光発電などを電源として利用しました。

2) 青森県八戸地域
青森県八戸市では、小規模ながら自営線を用いたほぼ独立した電力需給システムを構築し、電力系統に依存しない高品質な電力供給を目標に、実証研究を進めています。
青森県は、風力エネルギーやバイオマスエネルギーが豊富に賦存しており、また太平洋側等の一部の地域では日射条件に恵まれ太陽光発電に適した地域も存在します。さらに、県内全域が積雪寒冷気候で熱エネルギー需要が多く、燃料電池等による熱電併給に適した地域でもあります。八戸のマイクログリッド構想は、太陽光、バイオマス、風力という自然エネルギーを組み合わせるもので、下水処理場から発生するバイオガスによる発電、さらに太陽光発電と風力発電によって得た電力を、八戸市庁舎や市内の小中学校に供給します。各需要先と分散型電源を自営線で結び、東北電力系統と一点で連携した半独立系統となっています。
電力の供給を主体としたマイクログリッドの実証により、負荷急変時の応答などの電気的特性の向上を目指しています。

3) 京都エコエネルギープロジェクト
京都府では、一般の電力網や公衆の通信回線を活用した中・大規模で汎用性の高い電力需給システムを構築し、系統への影響を最小限に抑えつつ新エネルギーを活用した分散型電源の導入を促進することをめざして、実証研究が進められています。
ここでは、風力発電や太陽光発電に加え、食品廃棄物からバイオガス燃料を発生させガスエンジンや燃料電池などの発電に活用する地産地消型の環境性の高い運用が組み込まれており、一般電気事業者の電力網を利用した形態での安定した電力供給が目標です。

これらの実証研究により更なる知見が得られ、課題を解決していくことが期待されます。
今後の展望
近年、風力発電や太陽光発電、バイオマス発電などの新エネルギーは、著しい進展を見せています。また、コージェネレーションシステムの普及に加え、燃料電池など小規模向きの新技術も急速に発展してきており、こうした分散型電源の社会的なニーズも高まりを見せています。
地球環境保護やエネルギーセキュリティの観点から、今後こうした分散型電源の普及が進めば、電力ネットワーク全体の安定性をいかに維持していくかが重要な課題となります。こうした状況下で、マイクログリッドが注目されており、新エネルギーの普及を図る有効な手段としても考えられています。マイクログリッドの構築は米国が先行しており、わが国では実証のための試験研究を実施している段階です。
太陽光、バイオマス、風力などの自然エネルギーは、現実的には供給の安定度を十分満足しているとはいえません。このため、「電力系統」に接続する「分散型電源」の割合が大きくなると、系統電力の品質に影響が現れたり保安面での問題が生じることも考えられます。
新エネルギーの普及促進とエネルギーセキュリティの向上が期待されるマイクログリッドですが、電力系統から自立できるシステムとなるかどうかが課題となっています。当面、地域自給発電で需要の全てが賄えるようになるまでは、既存の大規模発電網との共存が現実的な選択と考えられます。
自然エネルギー等の地域資源を生かし、マイクログリッドによるエネルギーの地域自給が進めば、二酸化炭素の排出量の削減やエネルギー自給率の向上にも繋がります。マイクログリッドの仕組みが適正に機能すると、大都市部でのコージェネレーション化や工場・施設における自然エネルギーを使った発電が進むと思われ、地球温暖化対策とも相まって急速に広まることが期待されます。









